マンション大規模修繕改修工事タイミング発注方式工事者選定

千葉県船橋市にあるマンション管理組合様から「マンション大規模修繕工事の発注方式について皆が納得する方法が見つからずに困っている。どうすれば良いか?」とご相談をいただきました。

現地マンションに伺い、管理組合の皆様に

  • 建物の仕組み
  • 修繕工事の必要性
  • 納得した修繕工事を依頼する方式

について、基本的な仕組みと方式を説明させていただきました。

なぜ修繕工事が必要か?

そもそも、どうして建物に修繕工事が必要かを説明させていただきました。修繕工事は必ずするもの、という前提が固まっているので、修繕工事の必要性について改めて省みて、本当に必要な修繕工事を行っていただきたいと思っているからです。

建物資産価値の維持

修繕工事の目的は、

  • 建物構造骨組みの健全を維持
  • 建物外観の良好を維持

することで、建物資産価値を高めるもしくは維持することです。

鉄筋コンクリートの性質を理解する

建物の構造骨組みの健全化とは一体何なのか?簡単でも知っておいていただくと、修繕工事を行うこと自体、工事時期のタイミング、工事の内容・範囲を判断する上でよく理解して進められることが出来ると思います。

そもそも「鉄筋コンクリート」とは何なのか?から説明させていただきました。

鉄筋コンクリートは、コンクリート(セメント + 砂 + 小石 + 水 を混ぜて固まったもの)と鉄棒 が組み合わされたものです。

コンクリートは押される力(圧縮力)に対してとても頑丈です。しかしながら両方から引っ張られる力(引張力)に対しては非常にもろい性質があります。

これに対して鉄筋(鉄棒)は、押される力(圧縮力)には弱く、引っ張られる力(引張力)には強く耐えられます。

この真逆の性質をもつ2つの物体を組み合わせて、双方の弱点を補完しあって、圧縮力と引張力ともに高い性質になった鉄筋(棒)で補強されたコンクリート構造が発明されました。(Rainforced Concrete)

また鉄は錆びる(酸化する)とその強度がなくなります。鉄筋はコンクリートの中に埋め込まれていますが、コンクリートはアルカリ性のため鉄筋はコンクリートによって長期間錆から守られることになります。この性質からも高い耐久性が得られるという長所もあります。

鉄筋コンクリートを健全に維持する方法

コンクリートの強度は、完成後は徐々に上がりますが、長い時間を経ると徐々に強度が弱くなります。この弱くなる時間と強度の関係性は未だ明らかにされていません。実際に弱くなるのは明らかで、戦前に完成した建物のコンクリート強度が弱くなることは確かめられています。またこのコンクリート強度が弱くなることを防ぐ方法は現在のところありません。よってコンクリートは必ず寿命が来ることを理解しなければなりません。

 →関連記事「鉄筋コンクリートの改修保存と建替復元—関東学院中学校旧本館」

鉄筋の劣化は、

  • コンクリートがアルカリ性から中性になり鉄筋が酸化する
  • コンクリートがひび割れて雨水などが侵入して鉄筋が酸化する

ことで劣化が進みます。

鉄筋が酸化して錆びないためには、

  • コンクリートのアルカリ性を維持すること(中性化を防ぐ)
  • コンクリートのひび割れによる水の侵入を防ぐこと

が求められて、これらを防ぐために、屋根には防水が、外壁には塗装やタイルを貼って、鉄筋コンクリートの構造骨組みに空気や雨水などを触れさせないようにしています。

コンクリートの中性化とひび割れの防止

コンクリートの中性化はコンクリートに二酸化炭素が触れることで進みます。

鉄筋コンクリートのマンションに「コンクリート打放し」仕上げが少ないのは構造骨組みをより健全に維持するために、安価でもコンクリートを保護するタイルや塗装が施されているのは納得のいくように思えます。

コンクリートに施されている塗装やタイルが剥がれていたりヒビが入っていたりしていなくてコンクリートに空気や雨水が触れていなければ、コンクリートは守られていると思って良いでしょう。

修繕工事が必要なとき

上記の観点から鉄筋コンクリートの骨組みに悪影響を及ぼすのは、空気(二酸化炭素)と雨水です。繰り返しになりますが、コンクリートに触れている塗装やタイルが剥がれていたりヒビが入っていないことを観察していれば良いと考えます。

では一体、コンクリートの表面に施されている様々な材料をどのように観察すれば良いかを説明させていただいきました。これは専門家でなくても、ご自身の目で確認出来ます。他人に依頼せず、是非ご自身で観察することをお勧めします。

屋根ー防水

屋根に降った雨水をコンクリートに触れさせることなく排水させるために、屋根コンクリートに被せるように皮膜を施します。この皮膜が屋根防水です。屋根防水には数種類あり、

  • 金属防水
  • アスファルト防水
  • シート防水
  • 塗布防水

金属防水、アスファルト防水は建設時のコストは高めですが、メンテナンスが不要になることが多い材料工法です。建設時には比較的安価で済みますが、修繕、やりかえが必要になる防水がシート防水、塗布防水です。

シート防水、塗布防水は、どちらも時間が経過すると硬化して柔軟性が無くなり(手で触ると明らかに硬くなったと分かり)表面にヒビが入るようになって、裂けて穴が開きます。

このような状況(硬化して柔軟性が無くなり表面にヒビが入っている)が認められる場合は修繕工事が必要になったと考えて良いでしょう。ただし、部分的な対処療法的な修繕で済む場合もあります。

外壁ータイル・塗装

タイルについては完成当時はコンクリート面にしっかり貼り付けられていますが、タイル自体ではなくタイルとタイルの間の目地から水分が入り、目地が欠けたり、タイルが壁面から剥がれ落ちたりします。その前兆は、目地からコンクリートの白華が流れ出ている状況が確認出来ます。

塗装面は表面にヒビが入っていることや、そのヒビから白華が流れ出ている状況が、雨水がコンクリートに当たっていることを表しています。

このような状況になりましたら、部分的な対処療法的修繕を行うか、全体的な修繕とするか、検討を始めて宜しいかと思います。

シール

建物の外周部で異なる材料が接する部分には弾力性のあるゴムのようなシールと呼ばれる緩衝材が充填されます。幅10ミリ~30ミリくらいのモノです。これも時間が経過すると硬化してヒビ割れを起こし、最後には材料から剥離されて、コンクリート面に雨水を流し込んでしまうことがあります。

工事を行うタイミング

建物完成後、経年によって変化・劣化する表面材料について、

  • 建物構造骨組みの健全を維持
  • 建物外観の良好を維持

の観点から修繕工事を行う場合、可能な限り部分的な修繕を行なって、どうしても全体的に工事を行った方が良いと判断・ご納得された場合に全体的な工事をすることをお勧めしています。建物の規模が大きくなりますと、部分的な対処療法的な修繕と比べてとても高額な費用となるからです。

実際の修繕工事を行うまでには、

  • 住民の皆様の同意
  • 工事範囲の設定
  • 費用予算の確保
  • 工事者の選択

などの手順の期間が必要になるので、定期検診を重ねて工事のタイミングを合わせることが必要と考えています。

修繕が必要になる部分の劣化は、同じスピードで劣化する訳ではなく、材料ごと、部分ごとに異なります。

そこで毎年検査を行い、修繕が必要になるタイミングを見極める必要があると思います。

事前に定期健診を重ねる

まずはご本人も含めて、毎年検査=材料を目視して、手で触って材料表面の感触や弾力を確かめることが必要と思います。特に毎年同じ時期に検査を行うと、材料の劣化=硬化・破損に気付きます。他人の判断ではなく、自身で建物の経過を確かめることが必要と思います。

 →関連記事「賃貸マンション大規模改修工事を行うための定期検診と見極め判断」

検査をされましたら記録=写真と感想を残して、次回の検査には昨年の検査記録を読み返して、その年の経年変化を読み取って、今後どうなるかの予想も立てられると思います。定期検診は新築の状態からでも行うべきだと思います。

全体か?部分か?

定期検診を重ねて、さらに部分的な故障に対しては個別修理を行い、それでも全体的な修繕が必要と思われる際は、

  • 工事は必要最小限の範囲にする
  • 足場をはじめとするどうしても必要になる工事用の仮設材を兼用させて経費を最小限にすると同時に、月日を近くして繰り返しの工事にならないように、工事種類を検討する
  • 工事期間を最短にして暮らしが不自由になる期間を最小にする

の工事種類や範囲にすべきと考えます。そして費用の準備と費用との相談が必要です。

種類の異なる工事を集めて一挙に行うのは、仮設材の費用を繰返しにならずに抑制するため と 工事期間を出来る限り短くするためでもあります。

工事をどなたに依頼するか?

修繕工事をされる際の一番の関心事ではないでしょうか? 工事内容を正しく、可能な限り安価にしてくださる工務店さんをお探しのはずです。そのような方は一体どこにいて、どのように探すのか?

商品製品購入と建物工事の違い

工務店さん選びを慎重に行う理由をまず説明しました。

建物の工事は、既に完成している商品を買い求める方法とは異なります。

既に完成している商品は、手に取って眺めたり、作動を確かめて確かめが出来ます。その場で気に入らなければ購入することを止めることもできます。

逆に建物の工事は、完成するまでその品質は分かりません。完成した建物は、その場所に既に建っていて、建主様がその内容について気に入らなかった場合、簡単には交換は出来ません。よって工事をしてもらう工務店さん選びはより慎重に行って進める必要があるということです。

また、工事されている工事内容と品質については、工務店さんとは別にお客様が直接依頼して工務店さんとは関わりのない監理者を置くことが望ましい方法です。監理者は設計事務所で工事の内容と品質を専門家として判断できます。工務店さんとは関わりがないので、お客様の立場に立って品質の良し悪しを指摘出来ます。

工務店さんの仕組みと現場監督さん選び

建物の工事は沢山の種類の工事職方さんが集まって、順番に工事を行い造られていきます。その職方さん達に順序よく工事をしてもらう段取りを行うのが工務店さんの役割です。

この段取りを行う方が現場監督さんで、工務店さんの社長さんの代わりに現場の全てを取り仕切る方です。この現場監督さんが優秀であると建物は品質高く出来上がります。そこで工事にはこの優秀な現場監督さんを探して工事をお願いすることが重要であることを理解していただきたいと思います。工務店さんはこの優秀な現場監督さんをいくら抱えているかで、工務店さんの価値につながります。

では、優秀な現場監督さんはどちらに居られるか?またどうやって探すか?ですが、まず工務店さんですが、

  • 老舗であること
  • 公共建築を手掛けていること

と現在は考えています。営業年月が長いということは、堅実な営業をしていないと長い経営が出来ません。公共建築の工事をしているからには、工事が書面主義で面倒な確認作業を毎度されていることを表しています。工事を行う前に様々な確認を行うと間違いや失敗がありません。

端的に申しますと、正直であるということです。これは工事に関わらなくとも当たり前のことですが、正直な方にお仕事をお願いするのが一番です。ではその正直なお仕事をされる方はどなたか?と問うたときに、少なくとも上記の条件は当てはまることだと考えています。

可能であれば公共施設現場の現場監督(現場代理人もしくは作業所長)の経験を持つ方を望むことが良いと思います。

工事で確かめる内容

最後に各場面で確かめる内容を説明しました。

必要な登場人物

意外かもしれませんが、修繕工事において最低限選ぶことが必要な方は、正直な現場監督さんだけです。この人がマンションの住民の中に居られれば、それで済みます。

しかしながら、客観的に工事範囲や種類を定めたり、工事見積金額を査定したり、工事者選定の助言をしたり、工事内容の品質を確かめるためには、第三者として正直な設計事務所一人は居ても良いでしょう。

つまり、設計事務所と工事者工務店で十分です。

他のコンサルタントさんや管理会社は不要です。お金の無駄と言っても良いと思います。

工事の時期(工事を行うタイミング)

定期検診を重ねて、全体工事を行うことで

  • 工事仮設材の兼用
  • 劣化部材の施工時期の重なり

という全体工事を行うことで無駄を省くことが判明するタイミングをよくよく計ることが必要と思います。それには対処療法で部分的な修繕工事を行うこともあるでしょう。はじめから全体工事ありきで検討を進めるべきではないと考えます。

工事者選定・・・正直であること

正直者を探す、これに尽きます。探す目当ては上記に記しましたが、お近くの他のマンションさんがスムーズな工事をされているなら、その関係者にお願いをしても良いでしょう。

工務店さん側からすれば、良い正直なお仕事の結果が、新たなお仕事につながると言った好循環になると言っても良いと思います。

見積金額の内容

複数の工務店さんに工事金額のお見積もり依頼をして、お見積り書が届いたとき、

  • 内容に「一式」というまとめ表示がないこと
  • 指定した材料などが詳細に見積書に反映されていること

を確かめる必要があります。工事内容が詳細に記載されていなくて、「一式」とまとめられて表示されていることは、工事について詳しくない、工事が出来ない、ドンブリ勘定 であることを表していますので、そのような表示には注意が必要(出来るなら排除)です。

また最近では建築資材はネットや量販店で購入出来るので、例えばエアコンの取り替えを工事のひとつにしておいて、工務店さんに対して「エアコンの器具自体はネットで注文したい」と相談したときに工務店さんが「どうぞ」と快く即答してくだされば、見積書の金額に費用を追加していないと分かります。同じ相談をしたときに「工務店が購入した器具でないと工事できない」と返答をいただいたら見積金額に工務店さんの利益を上乗せしていると思って下さい。

工事の品質と保証

説明をさせていただいている際に「工事した各部分に保証を付けて欲しい」とご質問がありました。屋根の防水については、新築工事の際に防水の種類によっては10年保証などを出してくれる部位があります。修繕工事でもはじめからその条件でお見積りをされていれば保証してくれると思います。

ただし外壁の塗装やタイルについては、保証をしてくださる部位としてくれない部位があると思いますと返答しました。新築工事においても保証を出す義務がないからです。

最後に

大型のマンションにおける修繕工事は、非常に高額な金額になります。経済活動のひとつの流れに「お金が沢山あるところに魑魅魍魎が集まる」ことがあります。よって訳の分からない説明をしながらお金に集まる輩がいます。修繕工事は単に表面の材料を取り替えるだけです。搾取されないためにはご自身で理解して、必要最小限の正直な方と相談をして貴重な財産を健全に保って下さい。決して複雑で難しいものではありません。 と、申し上げて終了しました。

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北島建築設計事務所の実績解説をご覧いただき、誠にありがとうございます。北島俊嗣の30年を越える設計業務経験に基づいた設計実績解説は、お客様の改修や修繕が必要な建物のお悩みの解決にお役に立てたでしょうか。


これまでの業務で蓄積させていただいた、マンションアパートの改修工事や大規模修繕に関わる知識や経験 などを存分に利用していただくことで、お困りの課題を解決して建物の正しい活用を実現して下さい。


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