東京の設計事務所「古橋建築事務所」様が設計監理をされた計画「大学キャンパス内の体育館と屋内プール」の実施設計と工事監理を協力・担当をさせていただきました。
設計は、大きく2段階に分かれていて、
- 基本設計=建物の規模や形、プランや外装内装の仕様を定める
- 実施設計=詳細な部分までを設計し、建物を実際に建てるための設計図と確認申請図を取りまとめる
となっていて、当方 北島建築設計事務所は、上記の実施設計から協力・担当をさせていただきました。
既存の体育館+プール
既存の敷地には、約13年前に建てられた 体育館と屋内プールが並列に並んだ平屋の建物が建っていました。その完成時には私自身も見学させていただきました。
教室棟の増築と体育館プールの建替え
そのキャンパス部分に新たな大学様の方針行う教室を増築したいことが相談されたそうです。
空いている敷地にご要望の教室が建てられるかどうか検討したところ、建て増すだけでは広さが足りず、既存の体育館と屋内プールを建て替えて、教室を建てる計画に至った計画です。
地下にRC造のプール・地上にS造の体育館
未だ建てられて13年しか経っていない体育館+プールは、既存と同様の規模で建て替えられることになり、その配置が課題となって、敷地と計画建物の規模の関係から、既存の体育館+プールが並列に置かれて平屋だったことに対して、新しい計画では体育館+プールを上下に重ねた建物にせざるを得なくなり、体育館+プールのうち プールを地下に埋め込む形になりました。
地下のプールの構造骨組みは鉄筋コンクリートRC造になり、地上の体育館の構造骨組みは鉄骨S造となりました。
写真は既存の「体育館+プール」の解体が完了した敷地キャンパスの状況です。既存の「体育館+プール」は写真の左側に建っていました。
地下にある屋内プール
地面を掘って地下に建物を造るには様々な制限を受けます。特に以下の内容については、地上で建てる場合に比べて特別な設計が必要になります。
- 周囲の土圧を受ける構造設計
- 上部の体育館を支える大空間の梁の構造設計
- 地下水の漏水進入対策と湿気対策
- 法令による避難設備
- 自然光の採光確保
- 地下建物で発生する増加する費用
- 工事中の土留め工法
上記の内容に注意しながら、実施設計と工事監理が進められました。
プールの大きさ
地下にあるプールは1年を通して利用出来る屋内温水プールです。その大きさは、いわゆる「25メートルプール」です。周囲に相互通行が可能な奥行きの「プールサイド」が設けられています。
天井高さは 約7.6メートルで、下方に突き出した梁の下端は 約5.2メートルになっています。屋内プールの天井高さには明確な規定や基準はありません。今回の高さは、体育館やプールの準備室である更衣室や洗面室も地下に設けられ、そちらが地下2層の高さ階数になり、その2層分の高さに合わせた高さになりました。
(断面図編集中)
地下にあり 上部に体育館が載る 大空間プールの構造骨組み
プールは柱の無い広い空間になり、今回はさらにプールの上に体育館が載り、さらにプールが地下に埋もれるという、プールの大空間を支える構造にはそれらに対する工夫が必要になります。
この地上体育館+地下プールの構造設計を担当されたのは、正木構造研究所さんですが、厳しい条件を支える構造の仕組みを以下のようにされました。
- プールの上に体育館が載る → 大空間を支える梁のせい(高さ)を大きくする
- 大空間が地下に埋まる → 周囲の土の圧力に耐えるために厚さ40センチの壁と大きな壁柱で囲う
地下外壁の二重壁
地下の外周の壁は、地下室として環境を維持するために二重壁になりました。
地下室の外周壁は、常にその外側から周囲の土の圧力を受けています。また地下水があれば、土圧と共に地中外壁に圧力として加わります。これは地上の水が重力で地面に落ちてしまう状況とは異なり、上下左右関係無く 圧力を保ったまま地中外壁に当たっています。
その状態で地中外壁に多少でもヒビが入ったり、隙間があると圧力がかかっている地下水は壁に入り込み、ヒビが内部まで届いてしまうと、湧水として建物ないに進入します。
この湧水の進入を地中外壁の外側から遮断することは物理的に不可能に近く、内部から進入箇所を塞いだりしますが、完全に遮断することは中々困難なことが多いので、染み入るような量に留めておくことは出来るので、その湧水を汲み上げて排水する方式が採用されています。
ただしこの湧水が、地下室の室内に入り込むのは避けたいので、湧水を下部に落とし集める部分を確保するためにも、地下外壁を地下室の室内壁から離して空間を設けて、新たに室内側に自立した壁を設けることにしています。
この二重壁は地下外壁面の全面に渡り設けられます。このために、地下外壁が地下土圧に耐えるための厚みと、湧水処理のための空間と、二重壁の厚みの分だけ、地下室は狭くなります。
FRPのプール
水泳を行うプール本体の構造素材は様々です。
- コンクリート製
- ステンレス製
- FRP(ガラス繊維混入プラスティック)製
などで、
- 耐久性=ヒビが入って漏水しにくいこと
- 感触 =プール底面や側面の手触りや硬度
- 施工性=プールの位置による造り易さ
- 費用
を比較して、屋内で年中水が張られているという前提から、FRP製が選ばれました。一年を通して水が張られていて日射や外部の環境変化がないこと、生徒の安全性を考慮してより柔らかい素材がであること、地下室になるため材料の搬入し易さ、と、費用が考慮されました。
プールの床が上下する
キャンパスには幼稚園児から大学生までが通い、皆がプールを利用します。身体の大きさは大きく異なります。身体の大きさに合わせて、プールの水の深さが合っている必要があります。1つのプールの深さに違いを付けることは、利用できる範囲を狭くしてしまいます。
そこで、既存のプールも採用されていましたが、プールの底目全体が一様に上下出来る機構が採用されています。
写真はプール底の可動床が最上高さになっている状況で、プール水が水色の床の下にある状態です
小さな身長の生徒さん達が利用するときは、床底を上げて深度を浅くして、大きな身長の生徒さん達が利用するときは、床底を下げて深度を深くして利用します。
この機構により様々な身長の方々が広く利用することが可能になっています。
この機構がない場合とある場合の建物全体の必要深さは、約50センチです。
プールの水深表示・水温表示・室温表示
プールを利用している際に、身体の安全を守るために、
- 水深
- 水温
- 室温
を表示する盤が設けられています。その上部には時計も掲示されています。
身体の疲労や体温調節に注意して、安全に利用していただくための設備です。
洗眼器
水泳をした方の眼を洗う洗眼器(細かい水が上に向かって出る)水栓とボウルを、プールサイドの更衣室に近い壁面に取り付けられました。学校内には、附属の幼稚園・小学校もあり、児童もこのプールを利用するので、2つの高さを違えた壁付け器具になりました。
モザイクタイルの自立壁
更衣室で着替えを終えた利用者がプールに入る前に、必ずシャワーゲートを通過するようにプールサイドに自立壁を設けて、自立壁に囲われた部分にシャワーを取り付けてゲートにしています。
また、利用する学生さん達の安全を見守る教員が控える部屋があり、そこからプールサイドを少しでも広く見渡せるように、視線の高さで開口が開けられました。
壁面表面には、小さなタイル(モザイクタイル)が貼られ、プールサイド四周の外部側の壁面とは異なる表現にして、プールサイドの目立つアイテムとして位置付けられています。
プール側の壁面には、手摺の様な棒が取り付けられて、タオル掛けとして利用できます。
シャワーゲート
プールに入るとき、身体に付いたホコリを取り除くためにも、身体全体に温水が浴びることが出来るようなシャワーが設置されています。
シャワーは人が通るとセンサーが感知して水が出る仕組みになっています。足を水槽に貯められた水の中を通過することで足などを洗浄消毒する貯水槽は設けず、流れたシャワー水が下部に流れ落ちて跳ね上がらないように、床全体に樹脂製のスノコが敷かれています。
防水・ろ過消毒循環水
プールの水が外に漏れないように、防水面が連続して形成されています。
水が溜められているプールはFRP防水、プールサイドの床と周囲の壁は塗布防水が施されていて、プールの下部や周囲に水が浸透して行くことが無いようにしてあります。
プールから溢れた水は、排水溝に移り集められ、ろ過器で消毒されて、循環して再利用されます。
1年中利用できる・・・温水と床暖房
学校施設のプールとして1年中利用できるように設定されています。季節の移り変わりで外気温が変化して、冬の寒い時期にも利用できるように、水はろ過循環によって温度調節ができて、室内はプールサイドの床暖房によって温度環境が維持できるようになっています。
工事中写真:床暖房用の配管設置
カビ対策=結露防止と水切り収まり
屋内プールの中は、ほぼ湿度100%です。すると、常に内装材の表面は結露を起こすと考えられます。空気の循環が淀んだ場所は、カビを発生させる可能性が大きくなります。
そこで、空気を常に動かして、換気が行われるように空調設備を整えると同時に、建物の中は、水が溜まらないようにすることを留意しました。
建物内部の結露した水は、壁面では下に流れ、床は勾配を付けて排水溝に流れるようにしてあります。広い壁面に付いた結露水は自然に下に流れ落ちますが、次の材料に広がらないように、「水切り」と呼んでいる金物を取り付けることで、排水溝に水が直接落ちるように工夫されています。
トップライト
地下に位置するプールですが、四角形の一辺の上部には大型のトップライトが設けられています。
これは、
- 日中 常に外光を取り入れられる明かり取り
- 一部の窓が開放される換気窓
になっています。
このトップライトにより、地下とは思えない自然な明るさが確保されています。
プールで使える材料と器具・消毒薬
プールの水は毎日新しい水と取り替えません。数日利用されます。また複数の生徒さん達が利用します。当然のことながら雑菌が含まれることになります。
そこでプール水は塩素消毒されることが義務付けられています。
ただこの塩素は、プールの設備として取付けられる器具機器を錆びさせる原因の1つで、内装材や扉、照明器具や空調設備は、この塩素による化学変化に強いものが採用されています。
- ステンレスの扉
- 磁器質タイル
- 樹脂製のスノコ
- ステンレスの配管
- プール用として製品化された照明器具
プールの照明
こちらのプールは天井が高く、天井材に照明器具を取り付けることが困難な状況であったのと、天井より下方に突き出した梁構造が照明の拡散を邪魔してしまうことを考えて、照明器具は壁面に取り付けることになりました。
プール用として製品化された照明器具はとても少量で、選ぶことができないほどです。またプール用の照明器具は、天井面や壁面材をくり抜いて内側に収めるような器具はなく、ほとんどが仕上げ材面から大きく飛び出して取り付けられる形の器具でした。
そこで壁面に取り付ける照明器具は、壁面をくぼませて器具を取り付けることにしました。壁面のくぼみにはステンレスの板を曲げて加工した箱を制作して壁面に取り付けて、そこに照明器具を取り付けました。
ステンレスの箱には水が溜まったり、箱の下側から壁面に水が滴り落ちないような工夫を施しました。
注意した点は、
- プール内の湿気が壁面の内側に侵入しないこと
- 湿気が結露した水滴が溜まらないこと
- 水滴が壁面を伝わずに下部に落ちること
- 照明器具に水滴が溜まらないこと
に注意して設計、製作され、取り付けられました。
床排水スノコ
プールの床には様々な水が流れたり、飛び散ったりします。常に水はけを良くするために多少の角度を付けて(水勾配を付けて)水が流れる様にしてあります。
流れた水は溜まらずに排水しないといけません。そこで、床の水勾配の下方の先には排水スノコを巡らせてあります。
- プールの周囲全周
- 壁際
- 出入口開口下部
- シャワーゲート下部
が排水スノコになっています。
また、プールには裸足で入るので、直接 踏むことになるスノコは、鋭利な金属製を避けて、滑り止めのついた樹脂製のスノコが設置されました。
壁の点検口・倉庫の扉・換気吸い込みガラリの存在感を消す
- 地下二重壁の中に湧水が発生していないか確かめるための壁の点検口
- プールの用具を収納しておく倉庫の扉
- プールの換気をするために隣接する機械室に空気を吸い込むガラリ窓
などは、大事な役割りを担う設備ですが、プールで泳ぐ方々は直接利用したり関係はしないので、その存在感を出さないように見せることにしました。
壁のタイルを扉にも貼って あたかも内部の壁が連続しているように見せたり、見えるステンレスの枠やガラリの羽根などもタイルの色と同じ色で塗装を施していただいて、存在感を消す工夫がされました。
プールの吸音
プールでは、その湿度の高さから床壁天井の素材を水分が染み込まない材料を選択してカビや汚れを発生させないようにしています。
しかしこれらはプール内で起こった音を反射させて、いつまでも音が響いて、プールでは掛け声や号令が聞き取れ難い状況を生み出してしまいます。
そこで少しでもこの響く音を吸収する素材を施して、音が響いて聞き取り難い状況を無くすことにしました。
金属製吸収天井材
高さ(せい)が大きい梁が突き出ている その上奥面の天井は、天井材の下地組みを吊り下げ方式ではなく、直天井の下地方式にしました。
直天井とは、吊り下げ材を用いずに、上部構造床材に直接下地組みを固定する方式です。吊り下げ方式にすると新たに制定された「特定天井」の規制を受けて、様々な補強材が必要となることを避けました。
特定天井とは、以下引用
吊天井で人が日常立ち入る場所に設けられていて高さが6メートルを超える天井の部分で、その水平投影面積が200㎡を超えるものを含み、天井面構成部材の質量が 2kg/㎡を超えるものです。(国土交通省告示第771号 第2)
その直天井組みの下地に、板材自体に小さな孔がある多孔質吸音板を貼りました。
多孔質吸音材とは、以下引用
材料中に多数の空隙や連続した気孔がある材料です。このような材料に音が当たると、材料中の空気が振動する際に抵抗が働き、音の運動エネルギーが気孔間の摩擦によって熱エネルギーに変換され、吸音効果が生じる材料です。(NDC社 カルム材より)
壁面吸音タイル
プールの吸音性能を高めるために、天井材だけでなく、壁面にも吸音性能を持つ材料を施しました。
見た目は、軽石のような表面がザラザラで、天井材と同じように孔が沢山あるタイルです。厚みが3センチあり、30センチ角の材料です。これを表面がツルツルしているタイルと互い違いに貼るので表面が出っ張ることになるので、人が容易に触れない高さに張り巡らしました。写真の壁面のクリーム色の正方形が吸音タイルです。
材料は、「八木惣株式会社の吸音タイル」というタイルです。
プールの更衣室
プールで泳ぐには、入る前に服を着替えて、服をロッカーなどに収めてから入り、プールで泳いだ後は、濡れたの水を拭いて体を乾かして服に着替えます。
プールで泳いだ体に付いている水は、そのまま更衣室に運ばれます。その水はタオルで拭かれるか、床に落ちることになりますが、出来る限り更衣室に入る前に身体から落ちることが理想です。
そこで更衣室の場所は、プールから出来る限り遠くて、数多くの曲がりがあることが理想とされます。遠くて、曲がりが多いほど、水が落ちるのが多くなるからです。
地下の制限のあるプランの中で、途中に洗面、トイレ、シャワーを設けて動線を長くして、さらにその動線を曲がらせました。さらにその動線の床をスノコにしたり、タイルにしたりして、水が落ちても排水できるようにしてあります。
(平面図編集中)
更衣室を色別
通常、50人以下のクラス単位で利用されるプールという設定です。50人以下の単位の更衣室セットが2組用意されています。平面プランとしてはその
組みが左右二つに対称形になって別れています。プールを利用される方々に対して、自分が利用する更衣室が
更衣室は平面的に左右別れてふたつあり、プールを利用する生徒さん達は建物に着く前に、どちらの更衣室を利用すべきかのお知らせをいただきます。更衣室を利用する前、プールで泳いで更衣室に戻る際に、どちらの更衣室だったかを分かりやすくするために、内装を色で判別できる様にしました。
一方は桃色、一方は黄色。扉、壁、トイレやシャワーのブース隔てに、統一して施して、明確に「桃色の更衣室」「黄色の・・・」となれるようにしました。
地上の体育館
地下のプールの上には体育館が乗っています。(地下プールの方が、トップライトの分だけ広い)体育館は当初は球技以外のダンスなどの体育を行う場所として設定されていましたが、最終的には球技もされることとなり、各部分の設計が見直されて施工されました。
体育館の大きさ(広さ)寸法
体育館の広さは、バスケットボール1面が競技できる様に、17.2メートル × 31.5メートル の広さが確保されました。
体育館の天井高さ
体育館の天井は、バスケットボール・バレーボールが競技できる様に、7.5メートル の高さが確保されました。
体育館の床と下地
体育館の床は、運動を行うための床の硬度を保ちながら、館内で行う運動の床への衝撃を脚へ返さないように、緩衝材が挿入された井桁に組まれた浮き床下地の上に構成されています。
コンクリート構造床の上に、
- 緩衝ゴム
- 金属製の根太(井桁に組まれた床板を支える下地組)
- 木板
を組み上げて、最後に床表面材が敷かれています。
床への衝撃を逃す
体育館の床には、運動で床上で飛び跳ねる️ので 床を太鼓が叩く様に衝撃が加えられます。すると叩かれた床下の空気は、その都度圧縮されて、外側 すなわち壁側に押し出されます。床下空気の逃げ場所を用意しておくことで、床の衝撃を和らげる様にしてあります。
体育館の吸音性能・壁・天井の吸音
体育館で運動すると飛び跳ねたり走ったり、ボールが床壁に当たったり、掛け声を出したり、と大きな音が発生します。こちらの体育館は、凹みや出張りがない直方体の形なので、発生した音は床壁天井を反射して響き合います。すると音は減衰せず、長く残響音として残ります。
残響が長い室内は音の内容の判別がしにくくなるので、運動をするときには適さない環境になります。
そこで壁面と天井面を吸音面にして、音が反響せず残響が少ない体育室になるようにしました。
建築基準法上 体育室の表面材は不燃材とならなければならない板で、球技のボールが当たっても割れない程度までの穴を開けて、裏側にグラスウール吸音材を仕込んで、音の反射を少なくして残響音がなくなる工夫がされました。
体育館の空調エアコン
大きな容量の体育室を常に過ごしやすい温湿度の環境に保つには、莫大なエネルギーを消費する必要空気調和設備が必要になります。
体育室は稼働率の高い場所になりますが、必要最小限の空調設備によって最大の効果を上げる整備方針となりました。
体育室の天井の壁際の片側に大きな寸法の寸法のダクトを設けて、そのダクトから床に向かって調節された空気を吹き出して、さらに天井に埋め込まれたサーキュレーターによって空気を撹拌させて体育室全体が万遍なく整えられた温湿度環境になるようにしました。
体育館の照明と高窓自然光
体育館の採光窓は、
- 全体を明るくする
- 利用している人が外部の視線が気にならないようにする
という方針から、天井面の高さにある連想窓になりました。フロア床高さの窓はありません。
東北西の三方向に高窓が開けられているために、日中は安定した照度で自然光を取り込むことが出来ています。(日本では北側窓は敬遠されがちですが、安定した照度を確保するためには優れています)
窓のガラスには、周囲の高層マンション住民の方々への配慮として、不透明のフィルムが貼ってあります。
上記の自然光を採り込む高窓の他に、天井に照明器具を取り付けて照らし、夜間でも利用できます。
遮光ロールスクリーン
体育館の利用の中で自然光を必要としない方法や暗転まで行かなくても室内を暗くして利用することが想定できたので、高窓からの採光を遮光できるように、ロールスクリーンが設けられました。高窓は手の届かないところにありますから、ロールスクリーンは電動式になりました。
電動開閉換気窓
高窓の一部分は開閉式になっていて、体育室の空気の換気を行う際に開放出来るようになっています。
防球ネット
球技も行われる体育館では対象の球が放られて、天井や壁にあたります。当たる面が平滑であれば跳ね返るだけですが、孔があったり、窪みがあると、球は予想もしない部分にまで差し込まれて行き、戻って来なくなることがしばしばあります。
孔の大きさや、窪みを作らないように注意しますが、高窓の手前は室内からすると奥行きのある部分になりました。
こちらは高く跳ねた球が入り込んで溜まってしまうところと判断できましたので、入り込まないように、手前に防球ネットを張りました。
防球ネットはテニスのラケットのように、周囲を頑丈な枠で囲い、その中にネットを張り渡します。その枠を連続させて、高窓の手前に設けました。
バスケットゴール
体育室の大きさは、バスケットボール1面、バレーボール1面、屋内テニス1面が競技できる広さです。バレーボールとテニスはそのネットを床に差し込んだポールに張ってコートにします。
バスケットボールはゴールが上部にあるために壁からの固定になります。1面で競技するときは、壁に固定したバスケットゴールがゴールの位置まで内側に伸びます。
これとは別に練習用のバスケットゴールが4つ確保されて、壁面に取り付けられました。
ボールの衝撃に耐える工夫
体育室の中音性能を高めるために壁面や天井面には孔が開けられています。この孔を通過した振動音が、再び体育室に戻らないようにして、音が反響しない仕組みになっています。
この孔の大きさが大きく、数も多ければ、吸音性能は向上するのですが、球技の球が孔の大きな壁面に当たると、壁面が凹んだり破れたりしてしまいます。
そこで、吸音性能は保ちながら、球によって壁面が壊れないように、
- バスケットゴールの周囲は孔無しの壁面にしました。
- 吸音性能を維持しながら、孔の大きさを小さくして、孔の間隔を粗くしました。
消火栓・消火器収納
消防法の基準によって体育館の中にも屋内消火栓と消火器の設置が求められました。
双方とも万が一のときの消火設備として重要な器具です。ただ日常の体育館運動では利用しないので、なるべく目立たないような処置を施しました。
屋内消火栓の箱の表面には、周囲の壁面と同じ仕上げ材を貼りました。消火器も壁面の中に収め、収納箱の表面を周囲の壁面と同じ仕上げ材を貼りました。
スポーツ棟の構造
地下にボールがあり地上に体育館のある、地下2階 地上2階の建物の構造には、特徴が何点かあります。
ただ、原則的な部分で、地下の建物の構造はすべての建築物の地中基礎がコンクリート構造で作らなければならないのと一緒で、コンクリート構造となっていて、地上部分は、その建物の機能に合わせて構造形式が選ばれて、結果、鉄骨造となっています。
地下の周囲土圧を支える柱の無い大空間
地面を掘って地下に建築空間を作るとき、地下建物はその面積や深さに比例するように周囲の土から圧力を受けます。
建物の中身に周囲からの圧力に上手く反発出来る様に沢山の部材が有れば、周囲の土圧力への対策は地中外壁の厚みを厚くするくらいで済みます。
しかし 約20メートル×40メートル×高さ7メートルの地下空間で 柱や梁などが中間にない大空間を実現するためには、外周壁部分だけで周囲の土圧を引き受けて支えておかなければなりません。
すると外周壁を支える柱は巨大な偏平の柱になり、外周壁も柱が並んでいる様な厚みの連続壁になりました。
- 柱は、幅2.8メートル × 奥行き85センチ
- 地中外壁は、厚み40センチ
でした。
地上の体育館を支える大断面の地下プールの梁
地下に柱の無い 天井高さの高い大空間があって、その上にさらに大空間が載せられると、地上体育館の荷重を地下プールの上部梁構造で支えなくてはなりません。
この条件を実現するために、地下プールの上部梁構造は、非常に高さの高い(梁の「せい」が高い)梁になりました。
地下プールの天井から下方に高く突き出して、この地下プールの印象を特別なものにしています。
地上鉄骨ブレース構造のメリットデメリット
地上体育館の構造は、
- 大空間による柱と柱の距離が長いこと(長いスパン)
- 上部には建物が載らないこと
- 建物自体の重量を軽くしたいこと
から、鉄骨造が選ばれました。
鉄骨造が大きな揺れ震動に耐えるためには、基本的な考えとして、材料と材料の接合部を如何に頑丈にするかという方式の選択があります。
(1) 接合部(柱と基礎コンクリート・柱と梁 の接合部)を頑丈にする・・・純ラーメン工法 → 柱と梁が太くなる、柱がない空間でプランの自由度が高い
(2) 筋交いを接合部と接合部を斜めに結ぶ・・・ブレース工法 → 柱と梁が細くなる、プレースが出現するのでプランに制限が出る
地上体育館では、周囲の壁や屋根面にブレースを埋め込ませることが判断されて、さらに柱や梁が細くなる効果を期待して、鉄骨ブレース構造が選ばれました。
ただ筋交いブレース材は様々な箇所に設けられるので、
- 間取りプラン
- 扉の形状
- 設備機器の取付け位置
を十分に注意しないと、筋交いブレース材とかち合うことがあり、慎重な設計が必要です。
屋根
体育館の屋根は周囲の状況から出来る限り高さを抑えた形が相応しいと考えられました。
大空間の上部の屋根については様々な方法が選択できます。
- 勾配屋根
- ボールト屋根
- 平坦屋根
- 片流れ屋根
平らな屋根
同時に隣接して建てられる教室棟は地上6階建てで、体育館のあるスポーツ棟と比べると約3倍の高さになります。
教室棟からの眺望の広大さの確保と、スポーツ棟の建物の長大さを抑制させるために、屋根の形は平坦な屋根になりました。
手前の白タイルの壁・濃灰色の屋根が体育館 体育館越しの左右に延びる建物が教室棟
長大屋根庇
平坦な屋根はあたかも一枚の板を体育館の上に載せたようにして、教室棟の建物との間に出来る広いスペースを覆うように延ばして、このキャンパスに来られた学生を包むような外部空間を形成することにしました。
屋根の素材
鉄骨造の建物の屋根は、屋根を形成するための下地が鉄骨骨組みの上に板を並べたものになるので、アスファルト防水やシート防水、塗膜防水などは選び難く、金属製板による屋根が選ばれることが多いです。
金属製の屋根は、
- ガルバリウム鋼板
- ステンレス鋼板
- 銅板屋根
- チタン鋼板
という種類があります。どれもその薄さによる軽量屋根として多用されています。
下地となる成形板の上に防水シートを敷いて、その上に金属製板を貼り敷き詰めます。金属製板は短冊状に長くした長辺と隣り合う板の長辺を合わせて折り曲げて、広大な防水屋根面を形成します。
ステンレス防水
今回の体育館の屋根は、建物の長寿命とメンテナンスフリーを目指して、実績豊かなステンレス製板防水が選ばれました。
幅45センチのステンレスの長尺の板が現地で並べられて、隣り合う長辺面を重ねて折り曲げられ溶接されます。
ステンレス板のさらなる長寿命を達成させるためにも表面に焼付け塗装が施されて、濃い灰色の屋根面になりました。
屋根の先端のデザイン
直方体の体育館にフタをする様に平らな屋根を載せました。
平らな屋根は、東西北側の3方向は少しだけ建物から飛び出す形で、出入り口のある南側は深い軒下空間を形成しています。
平らな屋根の先端には、屋根に降った雨水が外周先端に下りて集まった水を受ける雨樋が仕組まれています。
屋根庇の先端を軽快な形状に仕上げて、屋根全体が軽快に載っているように見せようと工夫しました。
屋根の雨水を受ける雨樋は、屋根の面積が広いので、とても大きな断面寸法になります。この大きな雨樋を包括しながら、屋根庇先端を軽快に、さらに正確に水平に維持できる表現にするためには、先端にアルミ押出型材のC型綱を巡らせました。
この形状は隣接する教室棟の各階軒庇の先端金物と同じ寸法で、揃えたものになっています。
雨樋雨水排水
屋根に降った雨水は、屋根の平に近い1/50の水勾配に沿って、屋根の四周先端に組み込まれた雨樋に落ちます。雨樋の雨水は竪樋に集まって地面に流されます。
竪樋は屋根の面積から計算されて、必要以上の雨量を落とせる径面積の竪樋を必要本数以上に余裕を持たせて配置しました。
竪樋は、(株)タニタハウジング製の直径10センチのつなぎ目の目立たない樋管が取り付けられました。
外壁
地上の外観意匠である外壁は、隣接する教室棟の形や仕上げ材と連動して定められました。
押出成形セメント板
鉄骨造の外壁面はいずれかの板材などで表面もしくは下地を囲う必要があります。それは、
- 内外空気温湿度、雨水、騒音などの遮断
- 防火壁の形成
が主な役割です。
鉄骨造で良く利用される外壁材は、
- ALC板
- 押出成形セメント板
- ケイ酸カルシウム板
などです。
こちらの建築では、外壁を5センチ角の磁気室タイルを貼ることにしていて、その下地として、なるべく大判の板が貼れるもの=押出成形セメント板 が選ばれました。
ALC板が 60センチ幅の大きさに対して、押出成形セメント板は120センチの幅の板まで貼れるので、選ばれました。
磁器質タイル
外壁に貼る磁器質タイルは、目地を含めると5センチ角で、表面は光沢の無い 白と濃い緑のタイルが貼り分けられました。
これは、隣接して同時に建設される教室棟と同じ材料で、中身も形も異なる建物ですが、共通した材料を外壁に貼ることによって、一体のキャンパス施設であることを示しています。
5センチ毎にある目地も、表面タイルの色に合わせて選ばれたモルタル目地色です。
こちらのキャンパスの門から奥に伸びるように続く壁には濃い緑色のタイルが貼られ、その緑の壁に貼り付く様に建つ体育館の外壁は白いタイルが貼られました。
アルミパネル
白と緑のタイルの他に、化粧材として用いられたものが、アルミパネルです。アルミパネルは、
- 目地無しの大判のパネルになれる
- 自由な色で塗装できる
- 軽いので太い下地材が要らない
- 耐食性が高い
- 不燃材
という理由から多用されます。
アルミサッシ
外壁の開口部である窓は、アルミ製のサッシ枠で制作されました。機密性水密性断熱性軽量性に優れているため選ばれたものです。
ガラスは特別な場合を除いてほとんどが複層ガラスです。このことにより断熱性能や防音性能が向上しています。
さらに防火設備である場合の網入りガラスも、網の入らない代替えガラス=耐熱強化ガラスが普及するようになりました。網入りガラスが無いことで、フィルムを貼った場合のガラスのヒビ割れの心配が無くなりました。
トップライト
プールの明かり採りの窓 すなわち天窓トップライトのサッシは、外壁窓と同様にアルミ製のサッシ枠です。ただ、外壁の垂直面のサッシ枠と、屋根の水平面のサッシ枠(トップライト)では、同じアルミ製サッシ枠でも組み立て方の仕組みが異なります。
トップライトのサッシ枠は、雨水の止水性能が厳重で、降った雨水の落水処理方法が巧みである必要があります。そして枠の経年の変化による変形で起こる漏水を防ぐために、内側からの補強材強化も格段に量が多く支えられています。
アルミガラリ
換気設備や空気調和設備の空気の出し入れは、外壁面の穴から行います。ただし体育館やプールといった大空間になるとその空気の出し入れする量は大容量となり、穴と呼べるような開口では賄えず、大きな箱のような大きさの開口になります。
開口には、中に鳥や虫が入らないようにするためや、中の音が少しでも消されて出るようにするために、ガラリ=羽根板と呼ばれる細長い板を枠組みに隙間をあけて平行に組んだもの が取り付けられました。
最近まではガラリというと、羽根板が横に伸びたモノが主でしたが、新しく開発された羽根板が縦に伸びたガラリが取り付けられました。
エントランスホール
地上体育館、地下プールのスポーツ棟の地上出入り口=エントランスホールは、こちらのキャンパスの入り口ゲートから入った幅広いアプローチに面して開放されています。
外部の床タイルが内部に入り込む
こちらのキャンパスの入り口ゲートから奥の中庭に向かって幅広いアプローチを誘導する様に、濃い緑のタイルの貼られた壁が差し込まれています。
緑のタイルの壁には、大きな窓が開け離れていて、アプローチから壁に入り込む形でエントランスホールがあります。
外部であるアプローチの床は、ゴツゴツとしたタイルが敷かれていて、そのタイルが緑のタイルの壁を破ってスポーツ棟の内部に入り込む形になっています。軒下の外部空間が内部のエントランスホールに取り込まれているような形になっています。
外からホール全体が見渡せる外壁窓
軒下の外部空間と体育館や地下プールをつなぐ中間領域としてエントランスホールがあり、外部からはホール全体が見渡せるように外壁の窓は全面透明のガラスになっています。
エントランスホールのインテリアデザイン
外部と内部をつなぐ中間領域として、両方の素材が入り組んだインテリアになっています。
床は外部のタイルが連続して敷き込まれ、壁は体育館の壁面素材である天然木材フィンランドバーチの板材が貼り巡らされています。
見せる扉
エントランスホールの壁面には来館者が使い往来する扉があります。これらは使いやすくするために、壁面の木の素材の色とはメリハリをつけて視認し易くしました。
- 体育館への入り口
- エレベーターの出入り口
- 階段の出入り口
です。
見せない扉
来館者が使う出入り口とは別に、管理をされる方々が使用する扉や普段使わない消火器の収納箱などは、その存在が目立たないような設えにしました。
間接照明
エントランスホールは外部と内部との中間領域と言う位置づけをしましたが、壁面の存在を多少でも表現するために、天井との間に隙間を設けて照明を仕込んで壁面に間接照明を当てて、演出を施しました。
脱靴スペースと下駄箱
体育館は下足を脱いで上履きに履き替えて入館してすることになっています。
エントランスホールに入館された皆さんは、地下の更衣室で服装を取り替えて、再びエントランスホールに戻り、下駄箱のある脱靴スペースで靴を着替えて体育館に入ります。
この脱靴スペースは、エントランスホールと体育館の中間領域になるので、体育館の仕上げ材を引き出すようにしました。
床は体育館のフローリングが敷かれ、壁と天井は体育館のエントランス側面の仕上げ材であるメラミン化粧板を貼り込み、さらにこれを黒色にすることで、汚れ易い場所を汚れ難くする工夫をしました。
掲示板
エントランスホールでは利用者への様々なお知らせを紙面で貼り出すことが多いので、壁面に画鋲を指して紙面を止める掲示板が設けられました。
掲示板自体は、ブルテンボードと言う商品で、オランダ フォルボ社製です。
画鋲を抜き差ししても穴が伸縮する材料で、画鋲の掲示板に適しています。脱靴スペースの黒色がさらにエントランスホールに抜け出てきたように壁面に展開させました。
衝突防止柵手摺
エントランスホールの外部と内部の間には大きなガラスの窓サッシが取り付けられていて、出入り口は自動の両引き戸です。
自動両引き戸の近くにいる場合に、引き戸が開くときに、動く引き戸に当たらないように、手前に衝突防止の柵手摺が設けられました。
階段
スポーツ棟の地上の体育館 もしくは 地下のプールを利用する場合、はじめに服を取り替えるために地下にある更衣室に向かいます。更衣室には左右にある階段を利用して上下します。
鉄骨階段
階段の構造は、地下2階から地上2階の鉄骨造の部分まで通じるために、鉄骨の階段になりました。
地下に通ずる階段はとても限られた空間の中で階段を納めなければならず、周囲の構造や壁との隙間が少なくて、かつ階段の幅などの法令規制を受けて、厳しい寸法取りが求められました。
またコンクリートの1箱の中に鉄骨の階段を挿入するので、その工事組み立て時期についても難しい工事となりました。
手摺
階段の手すりは、階段が自然光が入らない地下の空間になるために、少しでも広がりのある開放的な階段にするために、さらに利用者が落下したり下方の危険を感じないような、縦しげ型手摺が採用されました。
さらにそれに補助手すりとして、高さ85センチにステンレスの丸棒を巡らせました。
階段の照明
窓のない自然光の入らない階段で利用者さんが安全に上下するためには均一に床を照らすことが必要です。
廊下などでは平らな天井面に照明器具を取り付けることが多いのですが、階段では天井面が斜めになっていたり段差があったりして均一に照明器具を取り付けることがなかなか困難です。
また室内が明るく感じることは、床面が明るい事よりも、壁面が明るくなっていることも、明るさの大事な印象になります。
そこで照明器具を天井ではなく、壁面に取り付けて明るい階段にすることにしました。壁面に取り付ける照明器具のことをブラケット照明と呼びます。
電気がなかった時代は、ろうそくで照度を確保する場合の壁面にろうそくをかける方法に習っています。
エレベーター
通常スポーツ棟で体育館とプールを利用する人は、地下にある更衣室やトイレなどを利用する場合、階段で上り下りします。ただ階段を上り下りするのに支障がある場合は、エレベーターを利用していただきます。
エレベーターの設置はバリアフリー法で定められていて、車椅子利用者の方にも不便をかけないように、設備として設置されています。
エレベーターの出入り口はエントランスホールに面しており、出入り口は幅90センチが確保されています。
耐久性の高い仕上げ材
学校施設キャンパス内には沢山の建物が点在しています。その全ては日々利用されていて、清掃がされても維持管理は多様を極めます。施設運営側としては、建物施設それぞれが出来る限りメンテナンスを必要としないで 長寿命になることを望んでおられ、そのためにも建設時に建物の外装内装において、単なる建設時の費用の圧縮だけを見て素材を決める訳でなく、長中期の施設運営として総合的に費用の出費を抑えられる施設建物の設計が求められました。
屋根
日々 日射と風雨に晒され、何もしなくても経年で劣化していくのが屋根です。屋根面は特に雨漏りなどがない限りメンテナンスや改修をする機会がありません。すると特に安価で耐候性の高い材料と工法が求められます。
今回は、平らに近い勾配から金属板防水屋根がへ相応しく、さらに板と板を溶接して止めていく方法が耐候性と長寿命を鑑みて、ステンレスシームレス溶接工法が選ばれました。
外壁
下地を押出し成形セメント板で囲っている外壁は、表面に磁器質タイルを貼って保護しています。タイル表面には光触媒剤を塗布して、表面に付着した汚れが雨水と反応して流れ落ちる様にしてあります。
床
通路や更衣室の床は、ビニール製のシートが張り敷かれました。
これは同じキャンパス内で実績のある床材で、リノリウム マーモリウムという、オランダ フォルボ社製の輸入製品です。
厚みが3ミリで 同じ厚みの製品の中でも硬度があり、床材として長い健在状態が維持されている実績から選ばれています。
壁
自然光が入らない室内では、明るい印象を保つために白色をはじめとした色彩にしていますが、水を使用する部分では、水しぶきが飛んでも簡単に拭き取れて、汚れても掃除のしやすいメラミン樹脂材を貼っています。
天井
天井は基本的に手が届かないので、あまり汚れる心配はありません。
今回は地下の室内プールで湿気が充満しているところで結露が起こり、汚れたりカビが生えてしまうことに留意しました。水を使う部屋の天井は樹脂材を採用して汚れやカビを容易に除去出来るモノにしました。
金属
室内で 特に地下室内プールで使用する金属は、可能な限りステンレスにしました。どうしても鉄製になる場合には、
- 表面に溶融亜鉛メッキを施す
- プールから離れた部屋に移動させる
- 鉄を止めて樹脂性の製品や材料を使用
などにして、錆びたり汚れたりしないようにしました。
工事・造り方の工夫
この建物が完成を予定していた2019年の夏は次の年が東京オリンピック開催でその準備のためのインフラ整備ラッシュが頂点を迎える時で、さらに慢性的な人手不足が重なり、工事期間の延長なく完成することが心配されていた時期でした。
鉄筋コンクリート造に関わる人手不足、鉄骨造のハイテンションボルト材料不足、大型公共施設工事現場の工期遅延を挽回するための職方不足などという社会現象にもなる事象の背景と影響を受けながら、工事を請負われた東急建設様は予定通りの工事を収められました。
地鎮祭
工事が始まる最初に地鎮祭が執り行われました。
関係者様が一同に会するときで、それまでは建て主様と設計者の数人で進められてきたと思われた計画も、ご一同様の多さを見渡したとき、何と大きな計画であろうかと思い直しました。このような大きな計画に携わられることを改めて感謝致しました。
→関連記事「大学キャンパス施設の新教室棟と体育館の工事前の地鎮祭」
地中土留め連壁
地下約11メートルの深さまで地面を掘って建物を造るとき、掘って空になった部分は掘られなかった周囲の土が押されて倒れて来ようとします。
土を掘り始める前に、掘る部分と掘らない部分の境い目に、掘られない部分の土が押されて倒れないように クサビ(親杭)を打ちます。
掘る深さが3~5メートル前後までは親杭 横矢板 工法で垂直に土が掘り進められます。(はじめに鉄骨のH型鋼を地中に差し込みます。掘れるのはこのH型鋼の長さの半分まで)短い間隔で差し込まれたH型鋼の間に板(矢板)を差し込んで土留めにします。
今回は、それを超える深さなので、H型鋼に代わる土留めをコンクリートで造る「ソイルセメント ミキシング ウォール:SMW工法:柱列式連続壁工法」で土留め壁が造られました。
土を垂直に掘り撹拌しながら土にセメントと水が混ぜられます。すると撹拌された土はコンクリートとなって固まります。これにH型鋼を差し込んで土留め壁になります。
地下掘削
地下四周に差し込んだ土留め壁の内側を地上から掘り進められます。ある高さまで止まり、四周土留め壁を内側から支えるつっかえ棒「切梁(きりばり)」が設けられます。
この切梁が都合2段設けられて、地中底が整えられて、地下コンクリートが組み立て始められました。
設計者(監理者)として建物の大きさを具体的に認識出来た最初の瞬間でした。
地下コンクリート鉄筋
丁度地下のコンクリートの鉄筋組み立て作業が始まったときは、夏の酷暑の盛りのときで、地下の作業場は熱くなった空気が溜まった釜の中であり、職方さん達には頭が下がる思いでした。
長くて重い鉄筋が整然と並べられ組み立てられていく様は、感動にも近い想いが胸に迫ります。
コンクリート造に必要なもの
鉄筋コンクリート造をつくるとき、必要な要素を大きく分けると、
- 鉄筋
- 型枠
- コンクリート
の3つに分けられ、その材料と組立て作業を現地で行う専門の職方さんが必要です。
さらにコンクリートに至っては、製造工場のコンクリートの出荷量と建設現場からの距離が課題となります。コンクリートは製造工場から出荷された後 どんなにコンクリートミキサー車で撹拌していても固まってしまうからです。
こちら大学キャンパスは山手線からは離れていますが、都会の中にある大学と言える場所にあります。一度に打設するコンクリート量と現場からの距離(渋滞などの道路事情)も加味されて、製造工場が定められました。
日本が沢山の建物をどちらの地方でも建設ができる理由の1つに、コンクリート工場が満遍なく設けられていることが上げられます。
製作図・施工図
世の中がパソコンを始めとするデジタルでモノを測ったり表示したりする中で、建築の工事現場は未だミリ単位で組み立てが行われるアナログな世界です。
コンクリートや鉄の構造、下地材料や仕上げ材料、窓や扉、照明やエアコンなど、全てがどこかに付いていて連続していながら、異なる人たちが材料を整え現地で組み立てて出来ていきます。
その材料の製作や現地の組み立ての寸法や順番については、設計図に基づいて新たに描かれる部品の製作図や全体をまとめる施工図が関係する人々によって整備されて進められています。
これらの製作図や施工図が不備のまま取り掛かると、相互の材料の関係位置や寸法に間違いが生じて、手戻りが多くなります。
工種が多く規模が大きいほど製作図・施工図の役割は重要で、その図面の枚数は修正が必要になったものも含めると膨大な枚数になります。
工場検査
製作図や施工図が整備されて、現地で組み立てる前に別の工場で製品として製造されて現地に運び込まれて組み立てられることが、多くなりました。それは、
- 製品精度の品質向上
- 工期短縮
- 現地職方不足対策
のためです。
工場で製作された材料が出荷されて現地に搬入される前に工場で検査を行い、品質の監理を行いました。
PC梁工場検査
地下プールの上に載る体育館の床を支えるための大型の梁を、工場で制作する方法=プレキャストコンクリート(PC)工法で行うことになり、長いスパンを4分割したPC梁(T型の形をしている)を確認しました。
写真はプレキャストコンクリートの金属型枠です
工場で製作されるコンクリート製品なので、非常に高い精度で出来上がっていました。
完成したプレキャストコンクリート梁
鉄骨工場検査と鉄骨建て方
鉄骨骨組みは板材と板材を溶接して柱や梁といった部材に組み立てるので、組み立ては専用工場で組み立てられるのが必須です。
鉄骨の材料の製作組み立てにおいて溶接は命であり、その強度精度は完璧を求められます。よって溶接部分の工場検査は第三者による全数検査も行われています。
鉄骨骨組みの品質は多重の検査によって監理されています。
アルミサッシ工場検査
トップライト工場検査
館名・案内誘導表示サイン
大学キャンパスの施設でも、多数の学生の方々が多様に利用される施設では、毎日利用する施設でないことから、建物の構成や使い方が不明な場合もあります。そこで最小限、部屋の名前や案内誘導のサインが表示されました。
館名と定礎
建物の用途は体育館とプールで明快なので改めてその用途を表示することまではしませんが、建物の名前=館名と建物が完成したときの年=定礎は表示されました。
階段案内
初めて体育館やプールを利用する人のために階段の初めに表示を置きました。
階数表示
建物の中は階段で主に上り下りします。また階段は地下への通り道となるために外部の窓がありません。すると自分がどちらの階数にいるのか、分からなくなることを想定して、階数表示を階段の踊り場に表示しました。
エレベーター
エレベーターを利用する方も自分がどの階にいてどこに行くのかをすぐに分かっていただくために、エレベーターの出入り口には階数とそれぞれの部屋の場所を表示しました。
室名
体育館やプールを利用する学生さんが達が開閉する建物内の扉は、いずれかの色で着色しました。逆にメンテナンスや管理のための扉は、壁面の塗装と同じにしたり、壁面の仕上げ材を貼ったりと、扉自体の存在を目立たないようにしました。しかし間違った部屋に入らないように、迷ったりしないように、扉の上部に部屋の名前を表示しました。
ガラス窓衝突防止
エントランスホールを始めとする外部に面する窓は、とても大きなガラスになっています。そのガラスの存在に気付かないでガラスに衝突してしまうことを避けるために、ガラス面にガラスの存在を知らせるポイント表示をしました。
完成・お引き渡し
16ヶ月に渡った工事も完了し、無事に建主様にお引き渡しがなされました。空前の人手不足という状況の中で進められた工事も、予定の工期内で完成したことは、工事者様の有能さと弛まぬ努力の結果であると言えます。
こちらの建物が完成して、沢山の学生に利用され、学生時代の記憶のページの背景になれれば幸いです。この計画に関われたことに感謝します。ありがとうございました。
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