建物設計の進め方
工場敷地内の管理事務所オフィスの建て替え計画で、計画が始められてから工事が始まるまでの設計の順序については、以下のように進められました。
- 建て主様のご要望をお聞きする
- ゾーニング(各部屋の位置関係)を確かめる
- 間取りプランの提案する
- 検討提案したプランを修整する
- 既存建物と比較する
- 構造とコストと特徴を確かめる
- 詳細設計を行う
- 設備・電気の設計を行う
- 地盤調査を行う
- 構造計算を行う
- 設計図(性能図・見積図)のとりまとめる
- 確認申請を届け出る
- 工事金額見積りを依頼する
設計の当初の相談検討は建主会社社長様と設計者(私)だけでした。会社の隅々まで熟知している社長様だからこそできる進め方でした。
建て主様からご要望を聞く
はじめは以下の内容を社長様からお聞きしました。
- 既存建物の各部屋の広さ
- 既存建物における社員様達の使い方
- 既存建物の良いところ悪いところ
- 新たな建物で働く社員様達の人数
- 新たな建物で追加する使い方
- 新たな各部屋の広さ
- 将来に必要なこと
これらの内容は初めの段階で全て判明する訳ではなく、検討段階や設計が進んでいるときに分かることもあります。逆に見直しがあって変化したり、無くなるものもあります。経営方針もあり、大事な検討期間であると考えています。
ゾーニング:各部屋の位置関係図
建主様のご希望をお聞きした上で、まずは各部屋の位置関係の模式図を作成します。部屋と部屋の並び方を示した簡略図で、部屋のかたちや広さは無視しています。隣り合う部屋と、離れていてもつながる必要を確かめて、玄関出入口をどこにするか定めます。
この作業を「ゾーニング」と言いますが、これが建主様の要望に合致していないと、どんなに間取りを考えてもご納得のいく間取りプランになりません。
間取りプランの提案
ゾーニング図を基にして、建主様の各部屋の広さを反映させて間取りプランを作成します。各部屋のつながり関係と出入口の位置と採光を加味しながらプランを作ります。出来る限り通路などの執務をしない部分を少なく出来ないかを加味します。簡単でも各部屋の出入口を想定して間取りプランまとめ、建主様に提案します。
検討提案したプランを修整する繰り返し
建主様に提案した間取りプランは、建主様の要望に合致していても、建主様の想像とは違うことがしばしばあります。
今までは各自の空想にしかなかった間取りプランが、図面として具体的に示されるとより具体的なご要望をお聞きすることが出来ます。それらは、はじめのご要望とは異なることもあります。そのときはゾーニング図に立ち戻り修整して再検討となります。
ただ「ゾーニング」がしっかり作られていれば、立ち戻る検討は難しくなく、より良いプランへと発展していきます。
この検討・修整・検討・修整・・・を繰り返して間取りプランが完成して行きます。
既存建物との比較
間取りプランの検討には、既存建物における使い勝手の良かったところと、悪くて改善したいところをハッキリさせておくことも重要です。
新たに建物を建て替えることは、使い勝手の悪かった部分を改善する機会と言っても良いのですから。
また今は不明でも、将来行う予定が少しでもあるなら、過剰にならない範囲で必要になるモノを用意しておくか、使えるようにしておくことも重要です。
例えば、今は通路の歩行に手摺りは要らないが、将来年を重ねれば手摺りが必然となるので、手摺りを固定するための下地を用意しておく ということなどです。
構造とコストと特徴
今回の計画ではコスト抑制の課題もあり、建物の構造を木造で出来るなら選べる前提で間取りプランを検討していました。もう一方の選択肢は鉄骨造です。
同じ大きさ、同じ間取りで、木造と鉄骨造のコストを比較したとき、予想では坪当り単価が20万円/坪~40万円/坪の差が生じると思われたからでした。
何故 木造と鉄骨造のコストの差が生じるかは、鉄骨造になることによって、
- 建物の地中基礎構造が大掛かりになる
- 建物の荷重が増えて地中の杭が大掛かりになる
- 外壁、窓サッシが大掛かりになる
- 構造設計が複雑になる
などが大きな理由に上げられます。
構造を選択する場面では、建設コストの試算を行なって比較検討材料としました。
最終的に今回は、地上1階の駐車場スペースの規模から木造では困難になる(木造は柱を立てる必要があるが鉄骨造は広い柱のないスペースが確保出来る)によって鉄骨造が選ばれました。
詳細設計
上記までの段階を「基本設計」と私達は読んでいて、以下の内容が定められ、その後の詳細な設計を行う「実施設計」という場面に移ります。
- 間取りプラン
- 玄関、部屋の出入口、窓
- 建物の高さ、天井の高さ
- 構造の種類、柱の位置
- 外装内装の程度方針
- ガス水道電気の引き込み場所
- 水周り(トイレ・給湯など)設備
- コンセント、照明などの方針
- 通信機器の使い方
- エアコン
設備・電気
建築を設計するチームには、我々設計事務所を中心に、構造設計と設備・電気設計のメンバーがいます。建物の種類や規模によってこのメンバーをその都度集めてチームをつくり、設計に取り組んでいます。
今回も、換気やエアコンの機械設備設計、トイレや給湯などの衛生設備設計、電源コンセントや通信設備、照明設備などの電気設備設計のメンバーを集めて詳細設計を行いました。
構造設計
建物の構造が鉄骨造に選ばれたため相応しい構造設計事務所をチームに加えて、構造設計を行ないます。
柱の位置と大きさ、柱と柱を結んで床を支える梁(はり)、建物を地下で支える基礎地中梁などの設計が行われます。
建築基準法の構造指針に沿って耐震耐風設計が行われます。
地盤調査
地中基礎も含めた建物本体の総重量が分かると、その重量を支える地盤が地中のどの深さにあるかを調査します。
ボーリング調査と言われるもので、地面に刺した棒にオモリを落とし、刺した棒が下がっていかない固い地盤を探す調査です。
今回は地面から地中 約7mの深さに支持地盤があると判断されました。
構造計算
各構造部材や地中の杭なども定まると、構造計算が掛けられます。
構造計算の判定がOKとなって設計チームの中での設計が完了したこととなり、設計図面がまとめられ、確認申請と工事金額見積りが始まります。
設計図は性能図・見積り図
ここでまとめられた設計図面は、確認申請(役所への届け出)と工務店様に依頼する工事金額見積りに使われます。
設計図面はこのまま建てるための図面という訳ではなく、建築基準法をクリアするための法律内容をクリアしていることを示す性能図面であると同時に、どなたでも工事が可能で工務店様の力量により品質の高いものを低価格で造ってもらうための工事金額を見積るための図面とも言えます。
もし本当に細かく詳細に図面を描き込むと、工務店の裁量を引き出すことなく工事方法を限定してしまい、工事者を限定して工事金額を吊り上げてしまう可能性があります。
工事着工後は、改めて工事者が施工図や製作図を描いて性能や形状を確認しながら工事が進められることになります。
確認申請
建物を建てるとき、安全な建物にするためにクリアする基準が定められている建築基準法に沿って設計されているかを確認する届け出です。以前は管轄役所にある建築指導課に提出しましたが、現在は民間の建築確認審査機関に届け出るようになりました。
申請には規模と構造によって異なる手数料が掛かり、今回は鉄骨造2階建て259m2で、70,000円でした。(ちなみに中間検査は52,000円、完了検査は52,000円です)
工事金額見積り
設計図面に基づいて工事金額の見積りを複数の工務店様に依頼します。
複数の工務店様に依頼するのは、少しでもコストを安く抑えて建てて下さる工務店様に出会うためです。
また設計図面は、複数の工務店様に同じ内容でお見積りを依頼するためです。この設計図面があることで公平の見積り金額で、比較査定が出来ます。
これに反して、設計図面がなくて、規模と構造と用途だけを工務店様に伝えて、内容を提案してもらい、工事金額の見積り金額を提示してもらって工事を依頼する方がいます。
このような方法では
- 工事内容が曖昧で、建主の希望と工務店の提示内容は合致してない
- 内容が細かく定まっていないから本当の金額かどうかが不明
建物の間取りや細部にこだわりがなく、工務店の裁量で建物が造られて、建主の希望が実現しなくても満足がいくならば、何ら問題はありません。
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